セイレネス
昔昔、あるところに美しい女の化け物がいました。
村のはずれの洞窟の奥、雨が溜まって出来た泉に化け物は住んでいました。
水底に隠れてしまう青い肌、災いの星が宿る光った目、
腐った植物で合わせたドレスは幾夜よりも黒く、
頭を飾った大きな角はまるで女王の冠のようでした。
化け物は雨が降れば現れると伝えられていたので、雨の日はみんな家の中。
だけどたまに外に出て行ってしまう人がいました。
少女はお母さんとけんかして、なんとなく雨の中を歩いていたのです。
濡れた服は重く冷たく、歩くことにも疲れたので、やがて少女は洞窟で雨宿り。
化け物のことは知っていたけれど、大人が作った怖いお話だと思っていました。
雫が岩肌を伝い地面に落ちる音が人の悲鳴のように聞こえます。
恐ろしくって泣きそうになったけれど、雨が止むのを待っていました。
待ちくたびれてつまらなくなった頃、洞窟の奥を覗こうと思ったのです。
奥に進めば進むほど人の悲鳴がたくさん聞こえます。
叫び声、震えた声、泣き声。とうとう少女は泉にやってきました。
雨の音は止まず、ここは薄暗い洞窟の奥。
泉の中に、少女は光る目を見たのです……。
昔昔、あるところに美しい女の化け物がいました。
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